a seasons (nor thmall lab compilation)

青森県内地元バンド業界における信頼のブランドNor Thmall Labが満を持して発表した、全13アーティストによるコンピレーション盤。
全収録曲が、レーベルオーナーである佐藤氏(from 聞こえないふりをした)の地元愛に根差した審美眼をクリアした、ある程度のクオリティーを保っているということは、大前提として記しておきたい。そして、美しいCDジャケットもまた、品質へのこだわりを強く感じさせるものになっている。以下、各楽曲を簡単にレヴューする。

01. maitadaisuke×Satoru Tachibana “maita song”
アルバムは冒頭から難解な曲で始まる。聞き手をふるいに掛ける挑発に感じられなくもない。弦楽器、電子音、管楽器、打楽器の断片的な音がコラージュされている6分間。抽象的な音楽ではあるが、それほど破綻しているわけではなく、流して聴く分には心地好ささえ覚える。音のまとめ方がうまいのだろう。

02. ATHLETIX “fuck order”
1曲目の音遊びからシームレスに、このスラッシャーな高速メタルに雪崩れ込み、それはあっという間に(1分ちょいで)終わる。前の曲との対比でお互いに生かしあっているアルバム構成である。

03. fill. “FOUR KIDS”
メンバーに元Fiction TellerのVo.が在籍する4ピース・バンド。Fiction Tellerは、曲のポップさも然ることながら、楽曲を“お話”と称するなど、御伽噺的世界観に不思議な魅力があった大学生バンドだった。全面的に簡素な英語詞のこの曲に関して言えば、その頃より没個性的になっている感がある。こじんまりとした抒情性をもつ、ギミック無しのごく普通なロックだ。

04. ちどりあし “聖峰”
黒石市内のイベントなどを中心に活動しているアコースティック・バンド。品のあるギターサウンドをしんみりと聴かせる。

05. Deria Humanoid “Usugure Bed Town”
90年代のジャパニーズ・テクノシーンでよく聴いたタイプのリスニング・テクノ。インテリジェンス・テクノなんて単語が連想され、ノスタルジアさえ感じる。あてもなく佇んでいるだけの時間を描いたような、捉えどころがないからこそ聞き返したくなる曲。

06. nicotone “オレンジシティは月泥棒の街”
典型的な宅録ポップミュージック。オールディーズ的なメロディをローファイなサウンドで奏でている。曲名のネーミングセンスも含めた渋谷系チルドレンぶりが、1周りして面白く聴こえなくもない。

07. YOURCALL “I, the Unlock”
ロディアスなハードコア。一歩間違えればV系になりかねない「泣き」の曲調が、日本のバンドシーンにいても不思議はなさそうな本格派らしさを漂わせている。

08. ゆらぎスピン “君が御船の綱し取りてば”
県内テクノシーンのベテラン、タケヤユウヘイ氏による別名義のアンビエント・プロジェクト。和テイストな曲名が仰々しく、曲自体も同様に荘厳な雰囲気を押し出しているものの、全体的には程良いスケールで綺麗にまとまっている。さすがの手腕で聴きやすいが、コンピ盤においては箸休め的な役目といえるだろう。

09. DIZO×シンゴクラスタール, kikoenaifuriwoshita “you more free”
(クレジットから推測するに)聞こえないふりをしたの音源を用いたと思われる穏やかなDIZOのトラックに、MCであるシンゴのシリアスなラップが乗る。ライムもフロウも水準は高く格好いいが、リリックはもう少し独自性が欲しいところ。

10. foolie “白紙(another ver)”
生きのいいドラムと切ないギターのアルペジオから始まり、ズンズン盛り上がっていくという、本アルバム随一の王道感漂う清々しいまでのロック。あえて難を挙げるなら、歌メロがやや単調なところだ。

11. THE EARTH EARTH “you will see (rough track)”
2013年終了時点の今、恐らく県内で最も勢いのあるバンドによる書き下ろしナンバー。轟音ギターを封印した、ポップでサイケな浮遊感のある楽曲。雰囲気だけで何となく持っていかれてしまう。

12. 聞こえないふりをした “水葬”
既にネット等で発表されている、淡々としたダウンテンポのナンバー。聞こえないふりをしたの音源は、ライヴに比べるといつもギターが控えめでそこに物足りなさを覚えなくもないが、逆に言えば静謐な美しさが強調されている、とも言える。

13. GLMYGLM feat.Frozen the MC “斜陽”
柔らかなエレクトロの上に囁くようなラップが乗る、ゼロ年代以降という感じの飄々としたヒップホップでコンピ盤は少しずつ軟着陸する。