After Lights

もはや弘前ロックシーンにおける重鎮バンドとなったCreepsが、新メンバー1名を加えて発表した5年ぶり4枚目のアルバム。
前作『カンテラ』でを大きく変化させた音楽性を深化させた一枚。どの曲もバンドサウンドで貫かれており、ヴォーカルも演奏も、抒情漂う曲想を丁寧に伝えようと終始落ち着いたトーンで行われている。曲調も、様々なミュージシャンから受けた影響を自分のものにした感がある。
アルバムの構成としても、アップテンポ、ミディアムテンポの楽曲が適所に配置されていて、バランスが良い。唯一、ライヴ録音の7曲目だけ空気が変わってしまうが、何らかの意図があってのことなのだろう。全体を通して、Creeps等身大の、透明感のある清廉な魅力が伝わってくる。
前作から個人的に感じられた課題が解消され、アルバムジャケットの色合い同様に、瑞々しさを感じさせる良作だ。

Enigma,Stigma,Stigmata,Errata,Eraser

HELLA GOODNESSとしての活動が盛んな平川市在住のビートメイカーGLMYGLMが、ひっそりとリリースしたワンコイン(500円)CDR。
長いCDタイトルは、収録されている5つの曲名をそのまま並記したもので、アルバムはミックス形式で1つの世界を築いている。HELLA GOODNESSのスプリットアルバムにて発表された曲と比較して、パーカッシヴなビートによるハウス的なグルーヴが強まり、それらがシームレスに繋がることによってより酩酊感が高まった。後半へ行くに従い、ディープな世界へ連れていく構成力はお見事。
表記はされていないがボーナストラックが収録されていて、そこではアルバムの流れとは全くの別個の、複雑なリズムパターンによるポエトリーリーディングのトラックを聴くことができる。これで500円であることを考えると、CDRとはいえお得な買い物だと言いたい。

pre-production #1

聞こえないふりをしたが2014年に発表した、既発曲を中心とした5曲の新録音源集。タイトルから察するに、著名なプロデューサーを迎えて本格的に取り掛かっているという噂のアルバムに関する“中間報告”といった位置付けか。
既発曲については、これまでリリースされたていた佐藤氏のデモ音源的なニュアンスの強いものと異なり、ライヴで聴くことができるメンバー3人のアンサンブルがきちんと再現されている。特に、彼らにとっての最重要曲でありながら、これまで決定的な音源が残っていなかった“八月の朝焼け”がやっと形になったことは喜ばしい。また、ベースによって低音が強調され、リズム・トラックの音が柔らかくなったことで、歪な部分が少なくなり、聴きやすさは大分向上している。
なお、CDRの前後に収められた新曲については、エレクトロニカアンビエント調の穏やかな作品だが、シンセ、オルガンの音色が優しく響く、彼らにとっては新機軸の楽曲である。
フルアルバム制作中とはいえど、いつ完成するか分からないのが現状だろうから、聞こえないふりをしたの現在形を知るには最適の一枚であるといえよう。

a seasons (nor thmall lab compilation)

青森県内地元バンド業界における信頼のブランドNor Thmall Labが満を持して発表した、全13アーティストによるコンピレーション盤。
全収録曲が、レーベルオーナーである佐藤氏(from 聞こえないふりをした)の地元愛に根差した審美眼をクリアした、ある程度のクオリティーを保っているということは、大前提として記しておきたい。そして、美しいCDジャケットもまた、品質へのこだわりを強く感じさせるものになっている。以下、各楽曲を簡単にレヴューする。

01. maitadaisuke×Satoru Tachibana “maita song”
アルバムは冒頭から難解な曲で始まる。聞き手をふるいに掛ける挑発に感じられなくもない。弦楽器、電子音、管楽器、打楽器の断片的な音がコラージュされている6分間。抽象的な音楽ではあるが、それほど破綻しているわけではなく、流して聴く分には心地好ささえ覚える。音のまとめ方がうまいのだろう。

02. ATHLETIX “fuck order”
1曲目の音遊びからシームレスに、このスラッシャーな高速メタルに雪崩れ込み、それはあっという間に(1分ちょいで)終わる。前の曲との対比でお互いに生かしあっているアルバム構成である。

03. fill. “FOUR KIDS”
メンバーに元Fiction TellerのVo.が在籍する4ピース・バンド。Fiction Tellerは、曲のポップさも然ることながら、楽曲を“お話”と称するなど、御伽噺的世界観に不思議な魅力があった大学生バンドだった。全面的に簡素な英語詞のこの曲に関して言えば、その頃より没個性的になっている感がある。こじんまりとした抒情性をもつ、ギミック無しのごく普通なロックだ。

04. ちどりあし “聖峰”
黒石市内のイベントなどを中心に活動しているアコースティック・バンド。品のあるギターサウンドをしんみりと聴かせる。

05. Deria Humanoid “Usugure Bed Town”
90年代のジャパニーズ・テクノシーンでよく聴いたタイプのリスニング・テクノ。インテリジェンス・テクノなんて単語が連想され、ノスタルジアさえ感じる。あてもなく佇んでいるだけの時間を描いたような、捉えどころがないからこそ聞き返したくなる曲。

06. nicotone “オレンジシティは月泥棒の街”
典型的な宅録ポップミュージック。オールディーズ的なメロディをローファイなサウンドで奏でている。曲名のネーミングセンスも含めた渋谷系チルドレンぶりが、1周りして面白く聴こえなくもない。

07. YOURCALL “I, the Unlock”
ロディアスなハードコア。一歩間違えればV系になりかねない「泣き」の曲調が、日本のバンドシーンにいても不思議はなさそうな本格派らしさを漂わせている。

08. ゆらぎスピン “君が御船の綱し取りてば”
県内テクノシーンのベテラン、タケヤユウヘイ氏による別名義のアンビエント・プロジェクト。和テイストな曲名が仰々しく、曲自体も同様に荘厳な雰囲気を押し出しているものの、全体的には程良いスケールで綺麗にまとまっている。さすがの手腕で聴きやすいが、コンピ盤においては箸休め的な役目といえるだろう。

09. DIZO×シンゴクラスタール, kikoenaifuriwoshita “you more free”
(クレジットから推測するに)聞こえないふりをしたの音源を用いたと思われる穏やかなDIZOのトラックに、MCであるシンゴのシリアスなラップが乗る。ライムもフロウも水準は高く格好いいが、リリックはもう少し独自性が欲しいところ。

10. foolie “白紙(another ver)”
生きのいいドラムと切ないギターのアルペジオから始まり、ズンズン盛り上がっていくという、本アルバム随一の王道感漂う清々しいまでのロック。あえて難を挙げるなら、歌メロがやや単調なところだ。

11. THE EARTH EARTH “you will see (rough track)”
2013年終了時点の今、恐らく県内で最も勢いのあるバンドによる書き下ろしナンバー。轟音ギターを封印した、ポップでサイケな浮遊感のある楽曲。雰囲気だけで何となく持っていかれてしまう。

12. 聞こえないふりをした “水葬”
既にネット等で発表されている、淡々としたダウンテンポのナンバー。聞こえないふりをしたの音源は、ライヴに比べるといつもギターが控えめでそこに物足りなさを覚えなくもないが、逆に言えば静謐な美しさが強調されている、とも言える。

13. GLMYGLM feat.Frozen the MC “斜陽”
柔らかなエレクトロの上に囁くようなラップが乗る、ゼロ年代以降という感じの飄々としたヒップホップでコンピ盤は少しずつ軟着陸する。

毒松茸2013

クラブパーティ『BEAT FLIGHT』を主催するDJアキタ&DJタクロウの2人によるユニット・人間ロックと、E級音源パーティー『極東』を主催していたDJワチャ&Shun Takamiyaが中心となって結成された、2DJ/2guitar/1VJのユニットが極東ロック。これは2013年秋にイベント来場者へ配布されたプロモ盤。
ライヴでは、新興宗教の教祖・DOKDOK総裁に扮したTakamiya氏のヴォーカル&説法、そしてバキバキのテクノサウンドに乗せた、単純明快なコール&レスポンスが大きな見所で、『極東』の2人が敬愛する電気グルーヴがもはや滅多に見せなくなったバカ騒ぎ的ノリを発展的に継承している。
ただこの音源は、骨格だけのバックトラックに総裁一人のヴォーカルが乗っかったもので、ライヴの大盛り上がりを想定するとちょっと寂しく感じる。良く捉えれば、一人相撲を取る総裁のペーソスが際立っている、ともいえる。
なお“毒松茸”という単語は、その昔『電気グルーヴのオールナイトニッポン』で陰茎の比喩として用いられた「平成新造語」の1つ。個人的には、他の楽曲に見られる地元ネタ(イサバのカッチャ、浅虫スーパーコンパニオンなど)の方が断然オリジナリティを感じるので、それらの音源化にも期待したい。

Exodus: HELLA GOODNESS split

弘前市を中心に活動しているエレクトロ・ヒップホップ・ユニットHELLA GOODNESSの2人(DIZO、GLMYGLM)がソロ作5曲ずつを持ち合い、アルバムサイズの盤に仕上げた作品。ユニットとしてのライヴでは、MCとトラックに担当が分かれ、類型的なヒップホップマナーに沿ったパフォーマンスを演じていたが、各人の音楽性は決してヒップホップの枠には収まらないもの。
前半を受け持つDIZOは、派手で扇情的なシンセの音色による攻撃的なエレクトロサウンドが特色。5曲中3曲でラッパーがフィーチャーされていて、ハードボイルドな世界観が築かれている。個人的には格好良すぎて、若干鼻白むところはある。
後半はGLMYGLMサイドで、前半と比較して内省的なサウンドが持ち味。ダウンテンポの楽曲と4つ打ちの楽曲による全5曲。耳当たりがよく、放っておくとつい聞き流してしまうきらいはある。
とはいえ、両者とも地方レベルとしては驚くべき本格派のトラックメイカーぶりを発揮している。2人の個性がブレンドされた時にどのような作風になるのか、決定的な1作を示してほしいところだ。

ヤーヤドー

2005年5月に発売された3曲入りシングルに、ほぼ無編集なライヴ音源を中心としたシークレットトラック5曲を加えた再発CD。後半5曲についてはファンならお得といったオマケ程度のものなので、前半3曲に絞って取り上げてみる。
リードトラック“ヤーヤドー”はその名の通り、ねぷた囃子が後半にフィーチャーされる、ありがちな気合一発民謡ロックものだが、楽曲自体に土着的なグルーヴが沸々と渦巻いているため、囃子や津軽三味線の取り入れ方が自然に感じられる。
カップリングは一転して、陰鬱さをベースとした津軽人の別の側面が浮き彫りになる。個人的には工藤洋岳(コスモス)によるアコーディオンが冴えまくる“笑い者”が耳を引くが、アコギ一本で切々と弾き語る“夏の匂い”で明らかになる女々しいまでの純朴さが、恐らくはシンガーソングライターふきたの本質であろう(と作風から勝手に予想する)。